人魚姫の悪夢



1.はじめに

このシナリオは「クトゥルフ神話TRPG」及び「クトゥルフ2010」に対応しています。
シナリオの舞台は現代日本、船で1時間ほどのところに浮かぶリゾート開発地『来淵島』。
探索者は3〜5人くらいを推奨します。
推奨技能:聞き耳、目星、鍵開け
導入が2種類あり、そのうち導入1の中心となる探索者(PL1)は30歳前後(27〜35歳)であることが望ましいです。
導入2に登場する探索者たちは全員顔見知りで一緒に来淵島に遊びに行くことになります。
また、PL2一行の誰か1人はPL1と知り合いであった方がゲームがスムーズに進められます。




2.登場人物

大路正人(おおじ まさと)(男・年齢はPL1に準ずる)

PL1の学生時代の友人で医師をしています。彼は大学を卒業後、離島医として来淵島に勤務していました。
そこで患者の姫野凪沙と恋に落ち結婚するも、彼女はほどなく病でこの世を去ってしまいます。
現在は探索者の住む街で医者をしており、妻の一周忌で1年ぶりに来淵島に戻ることになりました。
ここ数日、不思議な夢を繰り返し見ているため少し寝不足に悩まされています。

STR:13 CON:12 SIZ:14 INT:15  POW:11 DEX:9 APP:13 EDU:18
耐久力:14
技能:医学65%、精神分析40%、生物学55%、薬学60%、ドイツ語40%、英語50%、心理学45%
   信用45%、説得50%、言いくるめ30%



姫野真魚(ひめの まな)(女・17歳)

大路の妻である凪沙の妹です。
以前、凪沙の見舞いをする際に消毒をせずに入室しようとしたことを医師に叱られたことがあり、その影響から潔癖症になってしまいました。
密かに大路に想いを寄せていましたが、その恋は叶うことはありませんでした。
凪沙の一周忌を目前にして、彼女は夢の中でクトゥルフの化身・ビーモスの声を聴きます。
それから、彼女はビーモスの巫女として目覚め一人の狂信者と出会います。
彼女はビーモスの復活と、それによるすべての破壊を望んでいます。

STR:9 CON:10 SIZ:9 INT:11 POW:13 DEX:14 APP:14 EDU:13
耐久力:9



狂信者(男・??歳)

深きものの混血児で、クトゥルフ信者です。元は人間の姿をしていましたが、すでに深きものとして目覚めもう何十年も経っています。
彼はある日『クトゥルフとの接触』の呪文を試みました。結果ビーモスの意識が呼び起こされましたが、その声は彼ではなくより強くこの世界の破滅を望む真魚に届けられました。
真魚は夢に従い彼を訪ね、彼はクトゥルフの化身の声を聴いた彼女を巫女として崇めます。
そして、彼女の望む生贄の用意と邪神復活の儀式の準備に取り掛かります。
普段は北外れの小屋で昼夜を問わずクトゥルフに関する研究にいそしんでいます。

STR:10 CON:13 SIZ:12 INT:13 POW:9 DEX:12 APP:5 EDU:5
耐久力:17
移動:8 ダメージボーナス:0
装甲:2 かぎ爪(こぶし):55%(1D3)
組みつき:35%



秋月 仁(あきつき じん)(男・PL2に準ずる)

PL2の友人です。友人たちを誘って色々なイベントを企画するのが大好きです。
彼の誘いで探索者たちは来淵島に出かけることになります。
彼の父が来淵島にあるリゾートアイランドの株主で、株主優待券が送られてきたことにより今回の旅行を企画しました。

STR:11 CON:9 SIZ:13 INT:15 POW:10 DEX:12 APP:12 EDU:15
耐久力:12



姫野凪沙(ひめの なぎさ)(女・享年20歳)

大路の妻であり、真魚の姉です。
小さい頃から心臓が弱く、1年前に心臓移植の手術を受けたものの術後の経過が悪く死亡してしまいました。
今回、大路は彼女の一周忌に参加するために来淵島に戻ってきました。



姫野晃彦(ひめの あきひこ)(男・53歳)、幸恵(さちえ)(女・50歳)

凪沙と真魚の両親です。
大路と凪沙の結婚を当時反対していましたが、二人はそれを押し切って結婚しました。
そのため、心のどこかでは大路が凪沙を殺したと思ってしまうこともあるようです。



姫野たゑ子(ひめの たえこ)(女・74歳)

凪沙と真魚の祖母です。
探索者たちが到着する前日に、失踪しています。





3.あらすじ

PL1は友人の頼みを受けて、来淵島にやってきます。
島に上陸した探索者は一人の女子高生と出会います。
彼女は友人の義理の妹で、重度の潔癖症を患っていました。
そして、その日の夜、一本の電話を最後に友人の姿が消えてしまいます。

PL2は友人たちと一緒に来淵島に旅行にやってきました。
楽しいはずの旅行中、友人の1人が不可思議な泡に襲われ大けがを負ってしまいます。
2つの謎を解き明かすうちに、彼らは1人の狂信者の存在に気が付きます。
彼はクトゥルフの復活を目論む、クトゥルフ信者でした。
彼を追いつめた先には、失踪した友人と女子高生の姿がありました。
探索者たちはクトゥルフの復活を阻止して、無事に帰還することができるのでしょうか……。




4.シナリオの裏側

この物語は、大路と真魚が出会ったところから始まります。
真魚は大路と出会いいつしか想いを寄せるようになりますが、彼女の恋は思わぬところで終わりを告げます。
姉と大路が結婚し、更に姉が死んでしまったことにより真魚は大路の心が永遠に手に入らないことに絶望します。
そんなとき、とある狂信者(=深きもの)が『クトゥルフとの接触』の呪文を使用しました。
接触の呪文は成功したものの、クトゥルフ(厳密には化身のビーモス)の声を聴いたのは狂信者ではなく真魚でした。
こうして、ビーモスの巫女として目覚めた真魚は、自分を巫女として崇める狂信者と協力しビーモスの復活を企てます。
彼女は、ビーモスの「文明を破壊し世界を原始の状態に戻す」信仰に傾倒し自らの過去を消し去りやり直すことを望んでいます。
人体を溶かす泡は真魚の「恋が叶わなかった人魚姫」のイメージから作られた、彼女のオリジナル魔術です。
犠牲者は泡に触れた部分から溶かされ、最後には泡になってしまいます。
彼女の最終的な目的は、愛する人を生贄に世界を終わらせること。そして、来世で大路と結ばれることです。
真魚は凪沙の一周忌で来淵島に戻ってきた大路を深きものの力を借りて拉致・監禁して、儀式の生贄にしようとしています。

真魚の『泡』
泡に人体を溶かす性質を付与する魔術です。呪文が発動すると、泡を介して人体を溶かし始めます。
この泡はなんでもよく、ゲーム中では歯磨き粉、ボディソープ、食器用洗剤、ビールの泡などで犠牲者が出ています。
人体以外が泡に触れても溶けることはありません。
また、人体を溶かす泡を発生させる呪文ではないことに注意してゲームを進めてください。
(呪文が発動していない状態の泡を調べても特に異常はありません)




5.導入

1.PL1導入

GWも過ぎた5月中旬、PL1は大路正人に市内のファミリーレストランに呼び出されます。
彼はPL1の大学時代の友人でしたが、大学卒業後はしばらく連絡が取れませんでした。
これは大路が来淵島に就職したこと、患者と恋仲になったこと、更にその彼女を失ったことなどが関係しています。
彼は、PL1に一緒に来淵島に来てくれないかと話し始めます。
来淵島は探索者たちの住む街から船で1〜2時間ほどのところにある人口300人ほどの小さな島で、リゾート地として有名な場所です。
バカンスついでに付き合ってくれたら嬉しい、と大路は続けます。
PL1が詳しい事情を聴くなら、大路は妻の一周忌に出席すること、妻の実家が来淵島にあることなどを話してくれます。
≪アイデア≫ロールに成功したら、大路が寝不足で顔色が悪いことに気が付きます。そのことを指摘すると、大路は最近繰り返し見る夢の話をします。
夢の内容は、死んだ妻に「来淵島に来てはダメ」と繰り返し言われるというものです。
大路は夢を完全に信じているわけではありませんが、何となく不安を感じてPL1に同行を頼んでいます。
PL1が来淵島に行くことを了承したら、大路は約束の日時を告げて帰っていきます。


2.PL2導入

場面は変わって、船着き場です。
PL2は友人の秋月仁に誘いで来淵島に向かう船に乗り込みます。
その船には、偶然PL1と大路も乗っています。知り合いであれば、此処でお互いに気付くことにしても構いません。
他にも観光と思しき人が乗り込み、船はほどなく出航します。
出航してしばらく経った頃、探索者全員≪CON≫×5ロールを行なわせてください。
失敗した探索者と秋月は船酔い状態になります。
秋月が臨界点を突破しかけたその時、大路が声をかけて簡単な応急処置と酔い止めの薬を処方します。
大路は秋月(と船酔いした探索者)にしばらく安静にしていれば大丈夫ということ、宿泊先は同じだろうからもしまた辛くなったときには連絡してきても良いと名刺を渡します。
そうこうしているうちに、船は来淵島に到着します。
船を降りる探索者の前にふわふわと泡が飛んできます。≪目星≫に成功すれば、それが島の西の方から飛んできたことに気が付きます。
PL1は大路と共に姫野家へ、PL2は来淵ホテルへ向かうことになります。




5.姫野家の法事

船着き場から海沿いの道を西へ15分程歩くと姫野家に到着します。
姫野家は一般的な2階建ての一戸建て。喪服を着た人たちが姫野家に出入りしている様子が見て取れます。
≪目星≫に成功した探索者は泡がたくさん飛んでいること、また姫野家のすぐ横の排水溝が激しく泡立っていることに気が付きます。
PL1が線香をあげたいなど家の中に入る申し出をした場合、大路はそれを断りません。
中に入っていくと、晃彦と幸恵が大路を出迎えます。
その様子はどこかよそよそしさを感じるというかぎこちなく見えます。
居間には、親族とみられる喪服を来た人間が数名と白い薄手の手袋をはめた女子高生(真魚)が1人います。
真魚はPL1を姿を見るとそれとわかるように不快な表情を浮かべます。
重度の潔癖症を患う彼女は、見知らぬ他人が家にあがることをよく思いません。また、PL1が女性である場合、嫌悪の表情はより顕著に表れます。
大路はPL1が線香をあげ終えたのを見ると、「先にホテルに戻っていてくれ」と声をかけます。
彼女はPL1が立ち上がると、その場所に消毒用のスプレーを吹きかけます。

家の外に出ると、近所の主婦っぽいグループがこちらを見ていることに気が付きます。
彼女たちは不審なものでも見るかのような不躾な視線を投げかけてきます。
話しかけるなどのアクションを起こすと、彼女たちは抑えきれない好奇心を隠すことなく近づいてきて大路との関係を根掘り葉掘り聞きたがります。
彼女たちは所謂田舎のおばちゃんであり噂話が大好きです。此処で話した内容は翌日には島中に広がっていることでしょう。
しばらく彼女たちの会話に付き合う、あるいは大路と姫野家について尋ねると以下のことを教えてくれます。
ただし、この情報は彼女たちの噂話であり正確な情報でない可能性があることをキーパーは探索者に告げること。
・大路が姫野家の長女(凪沙)と駆け落ちしたこと
「大路先生、よく顔出せたわね」「凪沙ちゃん連れて駆け落ちして、結果死なせちゃったんだもんね」
・たゑ子が昨晩失踪したらしいこと
「たゑ子さんいなくなっちゃったってどうしちゃったのかしらね。昨日まで特に普通だったのに、呆けちゃったのかしら?」
・真魚の潔癖症について
「いつごろからだったかしら、真魚ちゃん潔癖症になっちゃってね。それからずっと手袋が手放せないみたい。しょっちゅう手を洗ってるから石鹸の泡がすごいの(と排水溝を見る)。うちの方にも泡が飛んでくることあるのよ」

しばらく姫野家の近くにいると警官がせわしなく行き交っていることに気が付きます。警官たちは姫野家裏手の家に入っていきます。
裏の家は真魚の祖母である姫野たゑ子が一人で暮らす家で、彼女は昨晩突然失踪しました。
失踪に関する手がかりはなく、また彼女が失踪するような前兆もありませんでした。 家の中が荒らされた形跡はありませんでしたが、洗面所に血の混じった大きな泡の塊とその上にたゑ子が着ていたと思われるパジャマと歯ブラシが落ちていました。
この情報は探索者が警官に≪交渉系≫ロールに成功した場合のみ手に入ります。それ以外の場合には、警官に現場から追い払われてしまいます。




6.来淵アクアリゾート

船着き場から東へ海沿いの道を進むと、来淵アクアリゾートに到着します。
探索者たちはこの中の来淵ホテルに宿泊することになっています。
アクアリゾート内にはアクティビティ施設が豊富にあり、そのどれもが来淵島の自然を存分に満喫できるものです。
ダイビング、釣り、サイクリング、散歩など探索者が希望したもので常識の範囲内であればキーパー権限で許可してください。
秋月は船酔いの影響から、まだ体調が優れない為ホテルで休んでいると言います。
思い思いの方法で探索者たちが楽しんでいると、小さな祠とその隣に立てられた看板に気が付きます。看板には来淵島に古くから伝わる伝承が記されています。


来淵島・人魚伝説

昔、来淵島には人魚がいました。
人魚は時折陸地に上がっては、島の人々を攫って海の神様の供物にしていました。
そんな時、旅の偉いお坊さんが来淵島にやってきました。
お坊さんが気合と共に、一枚の札を投げ込むと大渦が現れてたちまち人魚を呑み込んでしまいました。
その後、島の人たちは来淵島を守るために祠を建ててそこに海の神様を祭ることにしました。


探索者たちが遊び疲れて部屋に戻ると、秋月は体調が良くなってきたのかシャワーを浴びています。
しばらくすると、突然秋月の絶叫が部屋に響き渡ります。秋月の絶叫は30秒ほど続き、その後ぷつりと途絶えます(耐久力減少による意識不明です)。
探索者たちがすぐにバスルームに踏み込むならば、熱気と鉄錆の匂いの中気を失った秋月の姿があります。
秋月の体は半分ほど血の混じった泡に包まれて、じゅうじゅうと音を立てています。
この不可解な現象を目撃した探索者は1/1D6の正気度ポイントを失います。
≪目星≫に成功した探索者は泡が秋月の体を溶かしていることに気が付きます。
秋月の肉体の損傷は、泡を洗い流すまで続きます。キーパーは探索者たちにどう対処するか確認してください。
特に何の処理も施さない場合、秋月の全身は泡に変わってしまいます。
探索者たちがバスルームに踏み込むのをためらった場合も、秋月は最終的に泡に変わってしまいます。
(この場合は、探索者たちには突然の失踪のように感じるかもしれません)
PL1の部屋はPL2達の隣であり、帰って来たところでこの騒ぎに遭遇します。
探索者たちが通報するか、あるいは騒ぎを聞いた他の宿泊客の通報によりほどなくして警察(と救急)がやってきます。
その場にいた探索者たちは取り調べを受けることになります。取り調べと言っても、簡単な状況説明のみになるでしょう。
警察は第一発見者である探索者を疑うも、疑い切れない様子。これは、昨日から似たような事件が多発しているためです。
≪聞き耳≫に成功した探索者は警察官が「昨日から泡ばっかり見てるなぁ」とぼやいているのを耳にします。
これは、昨日から発生している事件の現場には、必ず大量の泡が発生していることを示しています。
取り調べが終わると、ホテルの人から部屋の移動を頼まれます。
PL2たちが泊まろうとしていた部屋は、事件の現場になってしまったため立ち入れなくなったためです。
しかし、今日は生憎満室でありできれば知り合いであるPL1の部屋に相部屋してもらえないかと頼まれます。
探索者たちが了承したら、次のシーンに移行します。




7.深夜の出来事

夜になっても、大路はホテルに戻ってきません。
探索者たちが大路の行方を気にしたり、電話をかけるなどの行動を行う場合は「今日は姫野家に泊まることになったのでホテルには戻らない」旨を電話で伝えてください。
特に何もなければ、就寝になります。このタイミングでキーパーはPL1の携帯に電話をかけてください(あるいは≪幸運≫を振らせてください)。
プレイヤーが着信に気付いた(≪幸運≫に成功した)場合、PL1は着信に気が付いたことにします。
着信は大路からのもので、電話を取ると「たすけてくれ」とひどく焦った声が聞こえ、直後に切れてしまいます。
この時、≪聞き耳≫に成功したらぴちゃぴちゃと水たまりを歩くような音が聞こえます。
この直後に大路の携帯は破壊されてしまうため折り返し電話をしても、アナウンスが流れるのみで繋がらなくなってしまいます。
「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていない為かかりません」
プレイヤーが着信に気付かなかった(≪幸運≫に失敗した)場合は、朝になったタイミングでPL1に深夜のうちに大路から着信があったことを伝えてください。
この場合も、アナウンスが流れるのみで携帯は繋がりません。

※この時、大路は真魚の部屋で深きものの襲撃を受けています。




8.姫野家の惨状

探索者たちが姫野家に到着すると、妙な静寂があたりを包んでいることに気が付きます。
雨戸は締め切られ、中をのぞくことは出来ません。また中に声をかけても返事はありません。
玄関の鍵は開いているため、中に入ることは容易にできます。
中に入ると、蛇口から水が流れる音が聞こえます。また、床が水浸しになっていることに気が付きます。


1.探索者たちの到着が深夜だった場合

居間にはこたつを囲んで4〜5人ほどの人が倒れています。PL1は晃彦と親戚たちであることに気が付きます。
こたつの上には倒れたビール瓶とコップが散乱しており、晩酌をしていた様子が見て取れます。
台所には幸恵がシンクにもたれかかるように倒れています。こちらは洗い物をしていた最中のようで、蛇口から水が流れたままになっています。
どちらも体の3分の1ほどが血混じりの泡に塗れています。
この様子を目の当たりにした探索者は1/1D6の正気度ポイントを喪失します。
≪目星≫に成功した探索者は、被害者の衣服が全く損傷していないことに気が付きます。


2.探索者たちの到着が朝以降だった場合

居間のこたつを囲んで、いくつかの大きな血塗れの泡の塊が散乱しています。泡の塊はこたつにもたれかかるように落ちています。
こたつの上には倒れたビール瓶とコップが散乱しており、晩酌をしていた様子が見て取れます。
また、泡に埋もれるようにして喪服があるのを発見します。喪服は特に損傷しているようには見えません。
台所にも大きな泡の塊がシンクにもたれかかる形で落ちています。ここには女性ものの喪服が1着落ちています。
此処で探索者に≪アイデア≫を振らせてください。
成功した場合は、泡の正体が元は人間であったことに気付いてしまい2/1D6の正気度ポイントを喪失します。
失敗した場合は、言いようのない不安に苛まれて0/1D3の正気度ポイントを喪失します。

2階に上がると、特定の一部屋に向かって濡れた足跡が続いていることに気が付きます。
此処は、真魚の部屋です。この部屋だけまるで荒らされたように物が散らばっています。
その際、引き出しに触った形跡がないなど物盗りとはちょっと違うということを説明してください。
これは大路がこの部屋で深きものに襲撃され、パニック状態に陥りながらも抵抗したためです。
更に≪目星≫に成功した探索者は、此処で魚の鱗のようなものと破壊された携帯を見つけます。
PL1が携帯を見たなら、これが大路のものであるということに気づきます。
この部屋では以下の場所を探索することができます。
キーパーは必要に応じて≪目星≫などを振らせてください。

・本棚
→雑誌や漫画が多い印象。その中に古い絵本『人魚姫』を見つける。
・ゴミ箱
→何かの場所が書かれたメモが丸めて捨てられている。「島北側 空き地」
・学習机
→古い日記帳を発見する。内容は以下の通り。


■真魚の日記■

(2年前)
お姉ちゃんのお見舞いに病院に行ったら捨て猫を見つけた。
怪我をしていて、どうしたらいいか困っていたら先生が助けてくれた。

先生が私の潔癖症について聞いてきた。
お姉ちゃんが入院したときに、私は消毒をしないで病室に入ろうとして担当の先生にひどく怒られたことがあって、それから綺麗な状態じゃないと耐えられなくなったと言った。

お姉ちゃんと先生が二人で話しているのをみかけた。
それだけなのに、すごく悔しかった。
先生と先に出会ったのは私なのに。私の方が先に先生を好きになったのに。

(1年前)
お姉ちゃんと先生が結婚するのだと聞いた。
結婚を決めてお姉ちゃんは少し元気になったように見えた。

お姉ちゃんが心臓移植の為に東京の病院に転院するらしい。
先生もついていくんだって。 夫 だから仕方ないよね。

ダメなのに。先生はお姉ちゃんの旦那さんで、もう諦めなくちゃいけないのに。

お姉ちゃんが死んだ。移植手術は成功したのに、術後の経過が良くなかったみたい。

先生はもう来淵島には帰ってこない。お姉ちゃんももう二度と帰ってこない。

手を洗ったら、お姉ちゃんの感触が消えてしまった。
こうやって、忘れて行ってしまうのかな。

(1か月前)
不思議な夢を見た。黒い影が聞き取れない声で何かを囁く夢。
それは言葉じゃないのに、夢の中の私にはわかっているみたいだった。

(2週間前)
同じ夢を繰り返し見る。段々と近づいてきているような気がする。
もう少しで私にも聞き取れる気がする。

(1週間前)
ようやく聞こえた。彼は私の願いをかなえてくれる存在。
私に“しもべ”を与えてくれるって。
「北の外れの空き地」に行ってみよう。
そこに行けばきっと、私の力になってくれるはず。

(昨日)
明日はお姉ちゃんの一回忌。
先生が帰って来る。そして、私の願いはついに叶うんだ。
泡はすべてを洗い流してくれる。
すべてなかったことにできる。この力があれば、きっと。






9.島の調査

探索者が希望するなら、以下の場所を調査することができます。

1.来淵病院

秋月が生きている場合、病院に見舞いに行きたいという探索者もいるでしょう。
病院に行っても、秋月に会うことはできません。面会謝絶状態になっています。
医師などに状態を尋ねても、怪我の理由事態が原因不明であるため詳しいことはわからないでしょう。

来淵島には病院が一つしかなく、大路の勤め先・凪沙の入院していた病院はこの来淵病院です。
島の病院とはいえ、ある程度の設備は整っている中規模の病院です。
病院勤務者に尋ねれば、以下の情報が手に入ります(KPは必要に応じて≪交渉系≫を振らせてください)。

・凪沙の病気が心臓病であったこと(生まれつき体が弱く、病院勤務者はほとんど凪沙(姫野家)を知っています)
・大路と凪沙のなれそめ(もとは医者と患者の関係だったということ)
・真魚が大路を好いていたこと(凪沙のお見舞いに来てはいつも熱心に大路を見ていたなど)
・凪沙が心臓移植を受けたものの、術後の経過が悪く死んでしまったこと


2.来淵神社

来淵島には神社があります。この神社は探索者たちがリゾート地で見つけた祠に連なる神社です。
神主に祠に関することや人魚伝説について尋ねると、いくつかの情報を手に入れることができます。

・来淵島には人魚伝説がある(リゾート地の看板と同じ内容)
・お坊さんが投げ込んだのは五芒星が描かれた札らしいということ ・その話は絵巻として、神社に残されている
→探索者がその絵巻を見るなら、五芒星の札を投げ込むお坊さん、渦に呑み込まれる人魚とその周りに触手のようなものが描かれているのがわかります。


3.島の子供への聞き込み

探索者が島民に聞き込みをすることを選ぶなら、島を歩いている途中で子供たちの集団に行きあいます。
≪心理学≫か≪目星≫、≪アイデア≫を振って成功したら、子供たちがどこかがっかりしたような雰囲気を纏っていることに気が付きます。
子供たちに聞き込みをすると以下の情報を聞くことができます。

探索者「どうしたの?」
人魚が出るから北の遊び場に言っちゃダメだと言われた
→島の北側の海辺はリゾート化されておらず、子供たちの遊び場になっています。近頃、変質者の目撃情報があった為子供たちは北の遊び場に近づかないよう大人に言い含められています。

探索者「人魚伝説について何か知ってる?」
→看板に書かれている内容と同じことを答えます。その中で、一人の子供が「海の神様のお話知ってる?」と言い出します。
・海に霧がたつのは海の神様が現れる前兆なんだって。
・海の神様に出会ったら攫われちゃう。
・海の神様は火が苦手だから、攫われそうになったら火を見せれば逃げていくんだって。

聞き込みを終えると、歌を歌いながら子供たちは去っていきます。 「籠の死ぬる鳥は いついつ出やる 海の狭間に くぅるとぅる、るりりあー 夢見て眠る子だぁれ」(かごめかごめのリズムで)
呼び止めて聞いてもこれが昔から伝わる歌だということしかわかりません。
子供たちは思い出したように「あ、でも…この歌この間北の遊び場で聞いたかも?」と言いますが、それ以上のことはわかりません。
≪クトゥルフ神話≫に成功すれば、この歌がとある邪神の復活を望む歌であることがわかります。


4.島民への聞き込み

探索者たちがまだ聞き込みを続けるなら、子供たちを見送ってしばらくすると島民と行き会います。
島民から聞ける情報は以下の通りです。

・島の北側について
→リゾート化が進んでいない為、子供たちの遊び場になっている。
 木が生い茂って海に出るのも大変なため、観光客はもちろん大人たちもあまり近寄らない。
 最近、不審者の目撃情報が相次いでいるため子供たちには北の遊び場に近づかないよう言い聞かせている。




10.北の空き地

真魚の部屋で見つけたメモに書かれていた場所は、人里離れた空き地で見渡しても特に見当たるものはありません。
北側はうっそうと木が生い茂っていて、向こう側を見通すことはできません。
≪目星≫に成功した探索者はまだ真新しい足跡を見つけることができます。
足跡は空き地から木立の中へ向かっています。木立の中は草木が生い茂っていますが、一部草が折れているところがあり誰かが此処を通ったように見えます。
しばらく木立の中を進むと、波の音が聞こえてきます。更に進むと古びた小屋に行き当たります。
扉には鍵がかかっていますが、≪鍵開け≫を使えば容易に中に入る事ができます。
中に入ると、たくさんの悪趣味な収集物が探索者の前に現れます。
内容は古い本を始め、不思議な文様が描かれた文鎮や触手を模った置物などいかにも魔術師の部屋と言った雰囲気です。
部屋に立ち入った探索者たちは得体のしれない恐怖を感じて0/1D3の正気度ポイントを喪失します。
≪目星≫を振り、成功したら散乱した机の上から手書きの本とメモのようなものを発見します。 本は手書きの写本のようで表紙には『CTHULUHU IN THE NECRONOMICON(ネクロノミコンにおけるクトゥルフ)』と書かれています。
読み解く場合に喪失する正気度ポイント、得られる技能、呪文などはルールブック(P.106)を参照してください。
メモには不思議な英文のようなものが書かれています。
「Ye nea gulshuna e dame kotsuri thememy u elme ni nahmah zah」
これはこの小屋の持ち主が作成した「旧き印」を活性化させるための呪文です。
もし、この呪文を唱えようとするならば≪アイデア≫に成功する必要があります。
≪アイデア≫に成功した探索者は呪文を正しく発音できたことになり、呪文発動の代償としてPOW1を喪失します。
呪文を唱えた探索者以外は≪目星≫を行い、成功したら部屋の中で光るものをみつけます。
光っていたのは歪んだ五芒星(エルダーサイン)が刻まれた小さな石版です。
呪文が成功した後は、ぼんやりと燐光を放ち続けています。
この状態の石版は、旧支配者を退ける力を持った魔術具となります。
ただし、この呪文で活性化できるのは同じ系統(魔道書)から作られた魔術具のみであるため呪文の詠唱に成功しただけでは「旧き印」の呪文を習得したことにはならないので注意してください。

一通りの探索を終えたところで、小屋の扉が突然開きます。そこには雨合羽を目深に被った猫背の人影が1つ立っています。
その人影は、おぼつかない足取りで小屋の中に入ってきます。その足元には水が滴っていますが、雨合羽は全く濡れていません。
まるで、濡れた体の上から雨合羽を羽織ったかのように見えます。
そして、その人影は探索者たちに気付くと問答無用で攻撃を仕掛けてきます。
この人影は、この小屋の持ち主で深きものの混血児(狂信者)です。
狂信者に攻撃がヒットした場合、雨合羽がはだけて0/1D6の正気度ポイントを喪失します。
狂信者はHPが1/2になると小屋を飛び出して逃げてしまいます。→11.海沿いの洞窟

探索者が行動不能になったり狂信者に抵抗しない場合は、生贄として儀式場に強制連行されてしまいます。
探索者の人数が多い場合何人連れて行くかは時間とメンバー内容によってKPが適切であると思う人数を指定してください。
連れて行かれなかった人はラストシーンに小屋の中で手足を拘束された状態で目を覚まします。
力任せに縄をほどく場合には、STR10の対抗ロールを振ってください。




11.海沿いの洞窟

探索者たちが小屋の外に出ると、濡れた足跡が点々と続いているのが見えます。
そのあとを辿っていくと、洞窟が見えてきます。
洞窟に入りしばらく行くと、開けた場所に出ます。
此処は狂信者の設置した儀式場です。
夜を迎えた時間にもかかわらず松明が灯され、洞窟内は明るく照らし出されています。
洞窟の反対側は海に繋がっていて、磯の香りが充満しています。
床に目をやると、怪しげな文様が描かれています。その中心には意識のない大路(+いるなら生贄に選ばれた探索者)が寝かされています。
真魚はその前に跪き一心不乱に祈っています。その声にこたえるかのように光る霧と泡が海から押し寄せてきます。
洞窟内の空気にふと血の香りが混じっていることに探索者は気が付きます。
そして、洞窟の隅に目をやると小動物の死骸が転がっていることに気が付きます。
この異様な雰囲気と空気にあてられ、0/1D3の正気度ポイントを喪失します。
海から押し寄せる泡は洞窟の泡を侵食し、徐々に地面を削りとって行きます。
この泡は今までの≪真魚の泡≫とは違い人体以外のものも溶かす≪ビーモスの泡≫です。

「あわはすべてをあらいながしてくれる。すべてなかったことにもとにもどしてくれる」 真魚は歌うように呟きながら詠唱を続けます。その真魚の周りに霧が段々と集まってきます。真魚の呪文は2+1D6ラウンド後に完成します。
その前に真魚を行動不能にしなければビーモスが復活します。
真魚の前には狂信者が立ちはだかり、探索者たちの妨害をします。


1.真魚を行動不能にした場合

ビーモスの召喚は中断され、霧が晴れていきます。
狂信者がまだ行動可能な場合、彼は何かに取りつかれたように神に縋るようにその霧を追って霧の渦の中に入り込んでしまいます。
絶叫と新たな血の匂いをまき散らして狂信者は霧と泡に呑み込まれてしまいます。
そのまま、霧も泡も海に消えてゆき後には探索者たちと大路、真魚だけが残されます。
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2.真魚の呪文が完成してしまった場合

真魚の周りを取り巻いていた霧がひときわ激しく輝き始めます。
熱くて冷たい不快な空気の流れはどこか不気味でもあり、探索者たちの不安が掻き立てられます。
1/1D10の正気度ポイントを喪失します。
霧は意思を持っているかのように渦を巻き、今にも生贄を呑み込もうとしています。 此処で≪目星≫に成功した探索者はその霧が真魚には近寄らない、むしろ結界のようなものに阻まれて真魚に近づけないように見えます。
そして、真魚の首から下がっている首飾りが燐光を放っていることに気が付きます。
小屋で呪文に成功していた場合は、その燐光が旧き印の活性化によるものだと気づいたことにしてください。
その中で真魚の訊くに堪えない名状しがたき祈りの言葉が洞窟内に響き渡ります。
「これですべておわり。先生もわたしも最初からやりなおすの。今度こそ私が先生と結ばれるの」

この後の探索者の行動によってビーモスの召喚の合否が決まります。

此処で探索者が旧き印を海に投げ込むか、松明を持って近づいた場合には霧が晴れていきます。
ビーモスの召喚は中断され、真魚は発狂してその身を泡に変えてしまいます。
それを助けようとして狂信者も泡に呑み込まれて溶け崩れてしまいます。
→エンディング2へ

探索者が何もしない場合は、大路の体が泡に呑み込まれ始めます。
肉が灼ける音、血と泡と磯の香り。その中心で大路はなすすべもなく泡に呑み込まれていきます。
「本当はわかってたの。先生は私のものにならないって。だから、全部やりなおすの。先生も私もこの世界も全部消してやりなおすの」
「みんな私と一緒に死にましょう――――――」
その言葉と共に泡がはじけ、その場にいる探索者に泡がまとわりつき始めます。
泡は容赦なく皮膚を溶かします。(ダメージ1D6)
ただし、活性化した旧き印を持っていたり松明を持っている人はビーモスの影響を軽減できるためダメージは以下の通りになります。
旧き印:ダメージ1固定、松明:ダメージ2固定

洞窟内いっぱいに膨れ上がった泡が真魚を包み込んだ次の瞬間、洞窟は崩落し探索者たちは海へと投げ出されます。

※このシーンでは来淵島に存在するすべての泡が、人体を蝕む凶器と化しています。
この時に探索者が町にいたり小屋に居た場合は、島民たちが泡に侵食されるシーンを挿入しても良いでしょう。
→エンディング3へ




12.エンディング


1.Aエンディング「眠り姫は永遠の微睡の中で」

病院のベッドで眠り続ける真魚。彼女はあの日から目覚めることなく眠り続けている。
彼女は人魚姫になることはできなかった。代わりに望む王子の訪れを待ち続ける眠り姫となったのだった。


2.Bエンディング「波間に消えた人魚姫」

本州へ向かう船。その中に探索者たちの姿があった。
秋月の件は犯罪性なしとみなされ無罪放免となった彼らは無事帰宅の途についた。
あれからどれだけ探しても真魚の痕跡を見つけることはできなかった。
彼女は泡に呑み込まれて消えてしまったのか。それとも、邪神の巫女として今も熱心に祈り続けているのか。
それを知る者はいない。それを知るすべも彼らにはなかった。


3.Cエンディング「人魚姫の悪夢」

目が覚めると病院のベッドの上だった。探索者たちは、傷だらけで浜辺に打ち上げられていたところを発見され一命を取り留めたのだった。
後に彼らは来淵島で原因不明の大規模な地殻変動があったこと、それにより島の北から西にかけた大半が海に沈んでしまったことを知った。
住民の多くがこれにより行方不明となった。その中には大路正人と姫野真魚の名前もあった。
彼女は現世で望む愛を得ることは叶わなかった。しかし、泡となり消えた人魚姫は来世に望みをかける。
たとえ、何度繰り返すことになっても……。



正気度回復ボーナス
ビーモス召喚阻止:1D10
ビーモス退散:1D10+5
大路or真魚を助けた:1人につき1D3





最後に

このシナリオを最後まで読んでくださってありがとうございます。
プレイするにあたって、改変や不要なシーンの削除などはKPさんの裁量で行っていただいて構いません。
後日談やイラスト、リプレイ動画などの制作にも、配布元や制作者「zerowyrd」または「zero」の名前を明記して下されば、こちらに連絡などは不要です。
ですが、ご意見ご感想プレイ報告などご連絡いただけると嬉しいです。
その際にはTwitterメールにてご連絡ください。
この物語がどんな経過を経てどんな結末に落ち着いたのか、結果こんな感じになったよ! とかご報告いただけると参考になります。
それでは、このシナリオに関わる皆様が楽しく、良い悪夢に苛まれますように。

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